四十年ほど前、わたしは少年時代を過したこの町に帰って来た。数年後、偶々見た新聞で、ここから百キロほど離れたある町で、松茸が採れたという記事を見た。
ともに日高山脈を背にした海沿いの街、あすこに有るならここにも有る筈と、山に住む知り合いに片っ端から電話をかけた。すると‟あのあたりにある筈”という返事。
小躍りする気持を抑え切れず、早速、あのあたりの山の斜面に取りついた。皆伐を終えた山の斜面、一時間ほども探したろうか。あったのだ、枯れかけたアカマツの根方の笹わらに四、五本の塊りが。
以来三十年、九月下旬から十月上旬、我家の食卓に あの香りあの味が載る日がある。