矢部太郎 著
新潮社 2024
大ヒット作の『大家さんと僕』をまだ読んでないまま新刊の本作を手に取った。
読んでびっくりしたのは、失礼を承知で言うと矢部さんはとても良い人なのだ。何というか、本当に見た感じそのままの人の印象が読後感として漂う。
この本はタイトル通りに誰かにプレゼントされたものや、それにまつわる出来事を矢部さんの漫画で飄々と表現している。そこではちっちゃい大事なことがいっぱい詰まっているような、そんな物語が続いていく。中には、自分がよかれと思ってプレゼントしたお面が、あげた人じゃない後輩の部屋にあって傷ついて(もらった人が迷惑だったのでしょう)、その「よかれ」って何だろうと思い直す素直さも良い人感たっぷりだ。
巻頭にあるモンゴル家族からもらった絨毯にまつわる話は2001年のテレビ企画で、言葉が通じない矢部さんと英語も喋れないモンゴル家族を東京で一緒に住まわせていたエピソードが書かれている。確かに、そんな無茶な番組は昔は幾つもあった。矢部さんがモンゴルの言葉を学び、家族とも交流ができた3ヶ月後にモンゴルに行って大衆の前でお笑いを見せるという企画だったようだ。それに真面目に取り組み、モンゴル人の家族ともある種の信頼関係を築いていく。そして思いもかけずにとても良い絨毯をもらい、それを大事に使っている矢部さんの感情は人気者になった今の状況などを謙虚に受け止めているということでもあるのだろう。
読む前はタレントさんだからプレゼントもいっぱいあるだろうな、くらいの気持ちで読み始めた。でも誰でも大なり小なり、物だけじゃなくプレゼントで支えられていることは多いと思い直す。自分へ買ったものも、その時の心を象徴するようなプレゼントだ。
確かに私もプレゼントでできているかもしれない。
『大家さんと僕』は、最近新潮文庫になっているし近いうちに買ってみよう。
2024.7.28(M)