益田ミリ 著
新潮社 2023
ツユクサナツコさんは、ドーナッツ屋さんで働きながら漫画を描いている。日々の出来事でナツコさんの心に留まったことを中心に『おはぎ屋春子』を執筆している。
ドーナツ屋で働くナツコさんがおはぎ屋の春子さんの漫画を描くのかあ、ほのぼのするなあと思いながらナツコさんの日常を覗き見するような気分で、読み進めていく。ナツコさんの漫画はネットに掲載されたりしているが、自分が漫画を描いていることを周囲に大体的には知られたくないようだ。
ナツコさんは、32歳らしい。お父さんと実家で二人暮らし。どうやらお母さんは他界してしまったようだ。
のんびりと暮らすお父さんだが、料理を作ったり、ナツコさんとの日常を協力し合いながら過ごしている。何となくいい距離感の父娘関係が続く。
ナツコさんの毎日がほのぼのしたものに見えるのは、私がナツコさんと全くの他人で彼女の生活が比較的単調に見えるせいだ。本来、生活なんてそんなに劇的なことばかりが起こるわけじゃない。小さなめんどくささや嬉しい・悲しいことの積み重ねが日常で、それは外から見たらドラマティックではなく静かな時間の経過なのだ。
ナツコさんの日常にもちょっとした変化はあるし、心の揺らぎはある。それを彼女は作中で『おはぎ屋春子』を執筆して、絵と言語にまとめていく。その経過も読者である私にとっては、安心して読めるほのぼのとしたものだ。
しかし著者の益田ミリさんは、それで許してはくれなかった。
人が生きるってどういうことなんだろね。ナツコさんは幸せでしょうか。幸せだよね。
心を揺さぶる作品でした。
2024.6.14(M)