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2025.01.15 更新

架空犯

架空犯 東野圭吾著

東野圭吾 著

幻冬舎 2024

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2人の死体、その家の火事、亡くなったのは議員とその妻で、妻は昔は女優だったというところから物語は始まる。議員のスキャンダルを表に出さないためという口止め料3億円が犯人から要求される。
こいつが怪しいと、読み始めの頃から思った人物がいた。しかし作者がそんなに簡単に犯人をわからせるわけがない。まして犯人は架空なのかと思わせるような本のタイトルである。

怪しいと感じた人物は、やはり事件の主軸に関わるようだ。しかし、読み進める中で、その怪しい人物はのらりくらりとしながら、どこか犯人ではなさそうだなと感じてしまう。では、誰が何のためにこの事件を動かしているのか。
亡くなった2人の長い間の経緯や、家族関係、掘り起こされる昔の事件や因果など、ページをめくる手はどんどん進むが、そこはミステリー小説の醍醐味でなかなか真相には届かない。
人間の持つある種の残酷さや、親子や男女の切ない愛憎劇を取り入れながら、たどり着いて行く真相に、胸の奥がチクリと何度も痛む。

安定の東野マジックで、安心しながら物語の波に感情を任せられる。そんな作者の力量を感じる作品だ。

2025.1.8(M)

星評価 4.0
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