だいたい吉祥寺に住まう

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2025.01.06 更新

方舟

夕木春央 著

講談社文庫 2024

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まさかの結末に唸らなかった人がいるだろうか。ネタバレさせる訳にはいかないから、しっかりと口を紡ぐしかないのだが、いやあ、本当にまさか、なのだ。
外からは建物があるとわからない山奥にある地下3階建ての建物、それが方舟だ。どうやら昔は過激派のアジトだったり、その後に新興宗教の修行の場所として使われていたといういわく付きの古くて怪しい建物である。
大学時代の仲間7人と山奥で道に迷った3人の家族が登場人物である。物語が始まった早々に、この10人は方舟の中に閉じ込められてしまい、そして殺人事件が起こる。
犯人は冷静かつ頭の良い人物である。それが誰なのか、最後の最後まで、予想が付かない。

地下3階は、水が溜まっていて使えない状況で、人々は地下1階と2階で寝泊まりをすることになる。地下水が少しずつ水位を上げていることや、その他の条件から残された時間は1週間くらい。そして9名の中から生贄ともいえる1人を選び、その人間が残る人々を助けるために命を差し出さないといけない状況になっている。主人公の柊一と従兄が捜査の中心的な存在になり、特に従兄が探偵のように詳細を積み上げて犯人を特定していく。
殺人の動機、それぞれの人間関係、本当に方舟から逃げ出す方法はないのか、など読者である自分も当然のように想像しながら読み進めていくが、物語の時間は刻々と進み悲惨な事件も重なってしまう。タイムリミットになり、主人公の従兄から犯人を特定すると、犯人も殺人が自分であると自供する。そして別れのシーンになるのだが、まさかが起こる。

出版されたころからかなりの話題になっていた本作だが、タイトルといい何となく手をだす勇気がないままでいたら文庫になっていた。気になるものは自身で確認するしかあるまいと、意を決して読んで良かった。ちょっとでも本作が気になるなら、ぜひ読んで一緒に「え〜〜!」と体験してほしい。
結末を知った今は、もう一度どこに伏線があったのか読み直したくなっている。そんな魅力がある作品である。

2025.1.3(M)

星評価 3.7
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