だいたい吉祥寺に住まう

ゆるく楽しく、
都市住まいをする大人のために

2024.10.09 更新

可燃物

米澤穂信 著
文藝春秋 2023

Amazonで見る

主人公は群馬県警の刑事、葛警部だ。
この男、余計なことは言わない。現場の事実を、多くの人間が陥りがちなフィルターを通さず、納得のいかないものは徹底的に検証していく。違和感のちょっとでもあるもの、あまりにも整合性が合いすぎてかえって不審に感じる事などを見落とさない。常に冷静である。シミュレーション能力が高いというか、その事件が起こった動機や状況を細部まで違和感がない状態になるまで、何度も想像しながら検証を重ねている。
本作は、タイトルとなった「可燃物」の他、「崖の下」「ねむけ」「命の恩」「本物か」の合計5作でまとめられているのだが、葛警部はいつも冷静で、とにかく考え続ける人として描かれている。そして、多くは各作品が終わりそうになる直前で、急展開で事件の真相がわかる仕掛けだ。
途中で、「ああ、この人が犯人かな」とか「あれは犯人じゃないな」とか、何となくうっすら見えてくる時もあるのだが、葛警部のクールさに読者である自分もどこかシンクロしてしまい、そんなに簡単に考えずにひとつずつピースを集めて考え、まだ結論を出すのは早いかも、という気分にさせられクールな自分になっている。物語は淡々と進むように感じるが、各作品のタイトルがそれぞれヒントにもなっていて、それが物語を楽しませる鍵でもある。
葛警部は、どんな人なのか多くは語られていないが、捜査中の食事に菓子パンとカフェオレが何度か登場するので、急ぎのカロリー補給だね、と思いながら食事というより「補給」する姿を想像する。

読みながら、これは映像にはしにくいだろうなあ、葛警部の頭の中が見えるような展開に映像化するのって陳腐になりそうだし難しそうだもんなあと思いながら、自分なりに配役を想像して楽しんでしまった。感情移入がしにくい作品ではあるが、削ぎ落とされ方に知性を感じる。

2024.10.5(M)

星評価 4.0