だいたい吉祥寺に住まう

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2024.06.28 更新

ゴヤの名画と優しい泥棒(2022)

偏屈そうな初老の主人公、ケンプトン。彼はタクシー運転手をしながら、政治的な意見をはっきりと持ち、お金にゆとりのない年金暮らしをしている。しっかり者の妻ドロシーは、議員宅の掃除をして家計を支えている。2人の息子のうち次男は、両親と同居し父の生き方を好意的に思いながら自分の夢も持っている。
ケンプトンは、年金受給者には国営放送(BBC)を無料で視聴できるようにすべきだと運動を起こすが、実を結ばない。現実にもっと向き合って欲しいと願うドロシー。現実世界では正義を通すと煙たがられることがあるが、彼はそれを曲げない。ドロシーはその運動を苦々しい面持ちで見ている。
ケンプトンとドロシーの長い夫婦生活の中で、大きな影を落としているのは娘が自転車事故で亡くなったこと。事あるごとに思い出したいケンプトンと、忘れてしまいたいドロシー。しかし根っこにある娘を愛していた心は一緒だ。

そして、ひょんなことからロンドンのナショナル・ギャラリーで話題になっているゴヤの名画を盗むことに成功し、これを盾にケンプトンが目論むのは年金受給者の国営放送を無料にすることだった。事件はイギリス中を大騒ぎにする。

実話に基づく作品とのことだが、物語の進行が非常にイギリスらしい。まさかの結末に笑いがこぼれた。
何となく生きづらい世界になってきたと感じるのは私だけではないだろう。裏金とか透明性のない政治とか、様々な状況にハラスメントという言葉が連なりがちな社会の傾向とか、身動きを取りにくいことが多いように感じる。そんな気分が払拭されるような、優しさとユーモアを感じる映画だった。この感じのイギリスって、本当にいいなあ。
 

2024.6.25

星評価 4.0