大型スーパーの品出しの仕事をしている女と、工事現場で働く男がカラオケバーで出会う。たぶん一目惚れ。ただしその日は動きはない。
女はちょっとしたことでスーパーをクビになり、男は仕事中に腕を怪我し、その時に酒を飲みながら仕事をしていたことがバレて追い出される羽目になる。
女はパブの皿洗いの仕事を見つけ、男は偶然にもそこの客となって、また出会っていた。
はっきり言って、男は酒クズというか、アル中としか言いようがない飲み方をしている。ギリギリの生活を続ける女の部屋にあるラジオからはウクライナのニュースが流れる。そうか、現代のことなんだなと、観る側にいる自分は理解する。それにしても見えるものは、古ぼけたものが多く、現代には見えないのだが。それもまた、カウリスマキ監督らしいと言えば、そうなのだ。
男と女は、デートで映画を観に行く。その画面に、アダム・ドライバーのアップが現れ、ここでもちょっとびっくりしながら、ああこれはジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画だったなとクスリと笑った。(『デッド・ドント・ダイ』)
女はアル中の男を許せない。一方で酒クズの男は、女のために酒を断とうとする。
切迫した生活の中で、大事に育てたいお互いの恋心が切なく愛おしい。
セリフのリズム、ちょっととぼけた出来事、写っている人々の姿も、もし過去にカウリスマキ監督作品を観たことがあるなら、彼しか作れない映画の匂いを思い出すだろう。これが初めてのカウリスマキ経験なら、過去に遡って彼の作品を観たくなるはず。
2024.5.6(M)