だいたい吉祥寺に住まう

ゆるく楽しく、
都市住まいをする大人のために

2024.04.19 更新

PERFECT DAYS(2023)

ヴィム・ヴェンダースの映画に主演で役所広司が出ていると言ったら、そりゃあ観たくなる。
初老の男は質素な部屋で目が覚める。洗顔や最低限の準備をし、つなぎの作業着を着て部屋から出ると、観る側はそこが古くて狭いアパートだとわかる。目の前に駐車場があり、すぐそばにある自動販売機から飲み物を買って、車に乗り込む。どうやら仕事にいくようだ。カセットテープから流れる「朝日のあたる家」を聞きながら東京の高速道路を走る主人公・平山。淡々として感情が読めないまま物語は始まっていく。カセットテープって、しばらく見ていないんだけど、これはいつが時代設定なのかと観る側はきっと思うはずだ。その疑問はすぐに解消する。東京にデザイン性の高い公衆トイレがいくつかあるのは私も知っていたが、平山の仕事はそこの掃除のようだ。つまり、時代は現代でカセットテープを聞く平山は、ある種のこだわりを持つ人なんだとわかる。
仕事は同僚とふたり1組で行っているが、若い同僚はあまりやる気がなさそうな様子。一方で平山は、丁寧にテキパキと自作のオリジナルの道具も持ちながら、ルーティンをこなしていく。観ている私は、まだ平山がどんな人なのか十分にはわからない。昼休みにはたぶんコンビニで買ったサンドウイッチを静かな場所で食べながら木漏れ日の写真を撮る。ああこの人は、こんな趣味があるんだ、なんだか豊かだなと感じる。
1日の仕事が終わると、自転車に乗って気軽にちょっと飲む感じの酒場に出向く。駅の通路と直結しているような店で、そこで平山は常連だとわかる。彼は寡黙で、静かに店のテレビをなんとはなしに眺めるでもないまま静かに飲む。この辺りで、ああこの人にも楽しみがあるんだ、よかったという気持ちになる。
夜は質素な部屋で文庫本を読み、眠る時間がきて目を閉じる。昼間に見た木漏れ日がちらちらと浮かんで、そして眠りに落ちる。
翌朝になれば、同じルーティンをこなして、車に乗ってカセットテープを聴きながら現場に出かける。
同僚とのやりとりや、毎日見かける人への感情、昼休みの過ごし方などを見ながら、東京に住む平山を覗いている私。部屋で育てている植物への視線や、余計なものが置いていない部屋からも人物像が少しづつ浮かび上がってくる。
平山の休日もシンプルだ。コインランドリーで洗濯をして、写真店に現像に行き、古書店で100円の文庫を1冊買って、いつもとは違う店に飲みに行く。たぶん休日だけ行く店だ。石川さゆりがそのスナックのママ。そして、平山はたぶん彼女に好意を持っているのが、表情から伝わってくる。
石川さゆりが歌っちゃうのには、びっくりしたけど。
そして、翌日になれば、仕事に向かう。そんな一見変わり映えのない日常に、突然割り込んできた姪がリズムを乱すが、それでも平山は彼らしく過ごしていく。
役所広司ってこんなに表情があるんだと驚かされる映画。そしてこれもヴェンダースのロードムービーだった。

2024.4.12(M)

星評価 4.5