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2025.03.31 更新

教皇選挙(2025)

コンクラーベという言葉を知ったのは、たぶん2013年3月に現在の教皇が就任された年のことだと記憶している。キリスト教の何たるかも知らず、教皇がどれだけ世界中のキリスト教徒から尊敬を受けてるかを皮膚感覚でわからない私にでも、メディアを通して伝わる期待と緊張感から、教皇の選出というのは世界に大きな影響を及ぼすのだなと理解できた。
バチカン宮殿で投票権を持つ世界中から集まった枢機卿による、外部とは遮断された場所での投票選挙。新しい教皇が決まれば、煙突からは白い煙が出て、決まらなければ何度も投票は繰り返される。
コンクラーベを知った時に、どうやって何度もの選挙の後に最終的にまとまっていくんだろうなあとぼんやりとは疑問に感じていた。

『教皇選挙』では、激しい疑念や欲望が積み重なって物語が刻一刻と動いていく。教皇の突然の死により、コンクラーベを執り仕切ることになったローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は、やるべきことをひとつひとつ進めながら神の御心を実現させようと苦心する。ローレンス自身は自分で教皇になろうという気持ちは微塵もなく、友人のベリーニ枢機卿を推していた。その他にも主張の異なる枢機卿や裏で何か画策している枢機卿などの中、ローレンスは選挙を進めていく。選挙が進む中で過去に罪を犯した者や画策していた者は、候補者から脱落していく。
そしてローレンス自身が候補者になると自覚した時に、象徴的な事件が起きるのだ。

システィーナ礼拝堂のミケランジェロによる最後の審判が、投票時の映像として何度も画面に映るたびに、バチカンの長い歴史や権力の継続を嫌というほど感じさせられる。今回の撮影は実際にバチカンで行うなど叶うものではなく、ローマ郊外のチネチッタでセットを組んだという。驚くのは、じゃあ、あの建物や内装、そしてミケランジェロもセットか、と思うと美術の完成度の高さも信じがたいほどに素晴らしい。もちろん壮麗な衣装や美しく光る小道具まで、とてつもない検証の上に準備されているものだろう。

実際のコンクラーベで、映画と同じように策略や欲望が渦巻いているとは思いたくないが、同じカトリック教徒と言えども国や地域の違いで見えるものや未来に望むものが違ってくるだろう。思惑がそれぞれにある中、誰を教皇として選ぶのかは確かに困難を極める時もありそうだ。信仰という名のもとに枢機卿だけでなく全体を束ねて率いていく、教皇という職責はとてつもなく重いものであろう。

映画の前半に、亡くなったばかりの教皇はチェスが好きで、よくベリーニ枢機卿と手合わせをしていたというエピソードがあった。ローレンスは、ベリーニに亡き教皇のチェスの腕前を尋ねると、とても強くていつも8手先を読んでいた、と答えた。
その時には「思慮深い人」なんだろうなと思ったのだが、実はそんな簡単な話ではなく、これは亡き教皇が結末を考えて仕掛けたであろう戦いを暗示する話でもあった。もし、その筋書き通りに行かなくても、きっとローレンスが教皇になってくれるかもしれない、と亡き教皇は思わなかっただろうか。そしてその次には、きっと今回の映画で選出された枢機卿がなるだろう、と踏んではいなかっただろうか。どのタイミングで、どの情報が出てきたら、ローレンスはどう対処するのかを、亡き教皇が十分に計算していたような結末に思えてくる。

ローレンス枢機卿役のレイフ・ファインズは、『グランド・ブダペスト・ホテル』の支配人役であり、『ハリー・ポッター』シリーズでの名前を言ってはいけないあの人・ヴォルデモートでもある。今回は、デリケートで苦難に満ちた立場の役どころを、鮮やかに導いてくれた。
ピーター・ストローハンの脚本も素晴らしい。彼は『裏切りのサーカス』の脚本を手掛けていて、これもまた凄まじい映画だった。
そして、シスター・アグネス役のイザベラ・ロッセリーニは、出てくれているだけで嬉しいとしか言いようがない。要になる重要な役で演技の重みが滲み出ていた。そうか彼女も70歳を超えたのかと知り、年月を経た変化は、もちろんしっかりと見てとれるのだが、ヨーロッパ女性の美しい年の取り方を見せてもらった。

この映画、わたし的に今年の1番かもしれないなと、まだ3月にして思える作品。

2025.3.30(M)

星評価 4.5
地中海世界の歴史5