だいたい吉祥寺に住まう

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2024.03.17 更新

さよなら ほやマン(2023)

もし自分が小さい島に住み、そして大きな災害のために大切な家族を失い弟をかかえることになったら、何ができるんだろう。その時に自分はぼちぼち仕事ができる年齢になっていて、残された弟が大きなトラウマを持ち彼が自立しにくい状態だったらどうするのだろう。生まれた島から離れて生活したこともなく、両親が大津波の後に戻って来ないまま、自分が家族の死を受け入れられなままでいたらどんな日々を過ごすことになるのだろう。大きな自然災害は、テレビやネットなどを通して視覚化され、直接被災しなかった人々にも大きな傷を与える。それは今も能登半島地震による報道からで毎日感じていることでもある。

2011年に起こった東日本大震災は発生した日付から3.11と称され、地震と共に大津波による予想もしない目を覆いたくなる傷跡を残した。東京にいる私は、地面が揺れることとあの非情な津波の映像が頭の中でうまく結び付かず、人間の無力さを感じ、放送され続ける津波の映像を見続けながら脱力していったのを覚えている。

『さよなら ほやマン』は、宮城県石巻市出身の庄司輝秋監督による長編第1作だ。3.11から過ぎた年数を数えると、観る前から監督の覚悟のようなものを予測してしまいながら作品に向かった。
ほやマンは、傷ついた人々のための映画である。そして人って、いつだって誰だって明日のことを考えることはできるんだよと思える希望の映画でもあった。物語の軸になっているアフロ、呉城久美、黒崎煌代の3人はバカバカしいほど愛おしくなる人々を演じている。
そして、何よりもあの島で実際に住んでいる多くの方々が協力したからこそに違いない、妙なリアル感と力強さが画面から伝わり映画を支えている。
人同士が繋がることの偶然とそこから生まれる何かをみんな信じようぜ、と思える映画だった。

2024.2.29(M)

星評価 4.0