だいたい吉祥寺に住まう

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2025.01.08 更新

希望の灯り(2019)

大規模なスーパーマーケットが映画の主な舞台だ。日本によくあるスーパーではなく、コストコのようなサイズのスーパーである。
主人公のクリスティアンは、真面目に仕事をしようとしている姿勢が見える無口な青年だ。首の後ろ側や手首にまで刺青があるが、上司のブルーノはお客様にそれが見えないようにちょっと大きめの制服を選んでくれた。仕事は飲料の在庫管理で、力仕事もあるしフォークリフトの運転も覚えなければならない。ブルーノの心遣いや教えぶりに、クリスティアンは彼への信頼を感じていくのが静かに伝わっていく。
ひとり暮らしのクリスティアンは孤独ではあるが、少しずつ仕事を覚え周囲の人々にも受け入れられていく。その中でも隣の通路で働くお菓子担当のマリオンに惹かれている。不器用で小さな恋だ。誰の目からも、マリオンへの好意がわかるが、彼女には夫がいると知り、その夜は大昔のガラの悪い友人達がたむろする酒場で酷く酔っ払い、翌日ははじめて二日酔いの上に遅刻をしてしまう。
一方で、彼女もクリスティアンの誠実さに惹かれている。

スーパーマーケットの在庫管理という淡々とした仕事の中で、同僚達は励ましあったり気遣いあったりしながら、日々が過ぎていく。その日常には人の死や、DV、過去との因縁、孤独など言葉に表すと胸が重くなるが、自分の日常や周囲にも潜んでいるような出来事が織り交ぜられている。
その日々の中で、クリスティアンの一途な恋は、いつかは違う形に実を結ぶかもしれない。うっすらと明るい光が見えるような作品だ。
ドキュメンタリーに思えるような一見無機質なカメラワークも効果的で、かつ少ないセリフの中で仕事の時間を共有することで出来上がっていく人間関係の表現も共感できる作品だ。

主人公を演じるフランツ・ロゴフスキは、独特の風貌を持ち存在感のある演技で、非常に好感が持てた。
またマリオン役のザンドラ・ヒューラーは、このところ大活躍の女優で『落下の解剖学』の主演、『関心領域』では主役の妻役で重要な役割を演じているので、本作を観ると「ああ、あの女優!」と思う人も多いだろう。彼女はこの2本で国際的な女優というポジションになった実力派である。本作では中年に差し掛かった生身を感じるチャーミングな女性を演じている。このサンドラ・ヒューラーは今後も出演作を追っかけていきたい女優である。

2025.1.5(M)

星評価 3.8
地中海世界の歴史5