読み直してから行くか、行ってから読み直すかとすでに観たという知人に話したら、観る人によって判断が分かれそうなので先に観たらと伝えられて劇場に足を運んだ。
予想通りに映像にするにはかなり難しい題材だった。豪華俳優陣を配し、長い期間に監督の中で熟成してきた想いが、作品のここかしこにしっかりと意味合いを持って緻密に繰り広がられる。
その緻密さがある種の息苦しさを形作っている中、俳優陣の演技力、特に主演の永瀬正敏の狂気の様はさすがだなと感服した。浅野忠信が壊れていくプロセスも力演だし、軍医だったという位置付けの佐藤浩市のよくわからない存在もそのまま受け止められる。でも、困ったことに真剣すぎるほどに笑いたくなるシーンがいくつもあった。特に箱男同士の対決で本気で体をはってバトルを繰り広げているシーンは、箱にスタントの人が入っているんだろうが実写であんなの本気で撮るって全く信じられない。映画館で「うへ〜」っていう心の声を何度出しただろうか。もしそれが監督の狙いなら私は術中にしっかりハマっている。それも含めて無意味な映像が全くないように構成されているのがよくわかり、それらが大きな熱量となって映画作りが進んで行ったのだろうな、と好意を持って見ることができるが、最後の「みんな誰でも箱男だ」とわかるようなずらりと並んだ箱に入れるシーンは急に説明的になって残念な感じだった。
葉子役の白本彩奈が、あの大御所俳優たちの中にいても腹が座っていて、かつ美しい。葉子が彼女じゃなかったらあの緊張感は保てなかったと思う。でも女をあのように扱うのは、安部公房の昭和感を感じてしまった。
大作家・安部公房の作品って映像化は難しいなあと、つくづく思った。
映画『箱男』は、力作というよりは怪作。作品化したことで、ある種の何かが成仏しただろうことは喜ばしい。
箱男は、すぐではなく、しばらくしてから読み直すことにする。
2024.9.7(M)