元殺人犯の三上(役所広司)を、どんな極悪人なんだろうと観ていると、三上の素直さや正義感、彼の人間味に引き込まれていく。幼くして母親と離れて施設で育った彼は、何度もの刑務所生活の末、今度こそカタギとして真っ当に生きて行くと決心し、努力しながらも揺らぐ時もある。
母をテレビを通して探したいと資料を送った事で出会うTV局の津乃田(中野太賀)や、身元引受人の弁護士夫妻、生活保護担当者、スーパーの店長などが三上を良い距離で支えて行くのだが、彼らは三上の人柄や更生しようという意思に、自分の人生と重ね合わせて共感していくように見える。
世間から外れていたはずの三上の事を、気がついたらみんなが好きになっていたのだ。あの実直さと不器用さ、生きづらさに心からの応援とそれぞれの人生を重ねているのだろう。
スクリーンで観ている側も、だんだん三上は近くなり、応援する彼らの気持ちに同調し、三上はいつしか自分の仲間みたいな気持ちで見えるようになっていく。ああ、素敵だなあと思う他愛もない瞬間は、たぶん堀の中で長年過ごした三上にとってとても優しく切ないものだっただろう。
それは彼や周囲にいた人々にとっても、映画を観ていた自分にも心がえぐられる何かだった。
西川美和監督が、自分以外の原作で映画を撮ったのは初めてらしい。西川監督の世界がまた拡がった。
2024.2.24(M)