2024.10.30 更新
景色からすると北海道のどこかの町、それもスケート場を持っている町が映画の舞台だ。
吃音の少年タクヤは野球はイマイチだし、アイスホッケーもイマイチ。そんなタクヤは、フィギュアスケートの練習をしているさくらから目を離せなくなる。これって明らかに一目惚れのシーンだよね、と観ている私もタクヤの視界にいるキラキラしたさくらを、ほんわかした気持ちで見る。
しかし、タクヤは恋というだけではなくフィギュアスケートの美しさにも目覚めて自分でも滑ってみたくなったのだ。
さくらのスケートのコーチ荒川は、元フィギュアの有名選手である。タクヤがさくらに見惚れているのに気がついたが、その後にタクヤがスピンの練習をひとりで行なっているのを見て興味が沸き、タクヤに自分の靴を渡しフィギュアスケートを基礎から教え始める。
タクヤの父親は自身も吃音で、タクヤに自分で好きなことを選べと言葉少なに伝える。
みるみる上達するタクヤを見て、荒川がタクヤとさくらに提案したのは、アイスダンスを一緒に滑ること。さくらは最初はちょっと不服そうだったが、タクヤの努力や一緒に作っていく楽しさで気持ちが昂っていく。
荒川は、いわゆるゲイでありパートナーの五十嵐と一緒に住んでいる。五十嵐の実家がこの町で、荒川は五十嵐が実家を継ぐという事情に合わせ五十嵐の地元に引っ越したのが物語の途中でわかってくる。荒川がタクヤに教えている様子を五十嵐に嬉しそうに話をすることで、五十嵐はタクヤにとってどれだけフィギュアが大切なのかもあらためて感じる。選手ではなくなっても荒川らしく生きるのはフィギュアスケートなんだと、タクヤに教えることで荒川も五十嵐も気づくことになる。
コーチである荒川に淡い恋心を抱くさくらだが、荒川が同性愛者だと気がつき、たぶんそれが嫌なのではなくそれに気がつかないまま荒川に密かな恋心を向けていた自分が嫌になって感情を爆発させる。そしてアイスダンスの大事な試験の日をすっぽかしてしまう。タクヤとさくら、荒川が楽しく厳しくスケートに向き合ってきた日々が空中分解した。
雪の積もる景色の中、タクヤと友達のコウセイが戯れながら歩くシーンや、タクヤとさくら、荒川が凍った湖で滑ったりはしゃいだりするシーン、広さが伝わる美しい雪景色など雪も大事な要素になっている。タクヤの家で飼っている犬も可愛い。
タクヤ役の越山敬達、さくら役の中西希亜良は、この時期にこの組み合わせで良くぞ映画にしてくれたと感謝したいキャスティング。荒川役の池松壮亮はスケーティングもかなり頑張ったんじゃないのかなと思える自然な滑りと、細かい感情表現が伝わり好演している。
この作品を観る前には「ぼくのお日さま」というタイトルは主人公の少年の視点で少女への恋を象徴するのかと思っていたが、映画が始まってすぐに出てくる題字からそれだけではないと見た途端に伝わった。そして「ぼく」はタクヤだけではなく、荒川も五十嵐も、友達コウセイやタクヤの父もきっと「ぼく」だと思う。それぞれのお日さまが心の中でキラキラしているはずだ。映画を観たらそれぞれのお日さまに想いを馳せ、心がキュンとして暖かいものを思い出せるような作品だ。
2024.10.29(M)