前回、カレー猛者がつどう会議に参加したと書いた。熱きカレー愛に驚き、胸打たれることが多々あったのだが、そのうちのひとつが、「カレー専用スプーン」が開発、販売されているということだった。
カレー専用スプーン(控えおろう、その名も「カレー賢人」さまである!)は、カレーの旨味を最大限に引きだし、カレーをすくって食べるのに最適な形状を有しているそうで、実用的かつ、まろみを帯びたうつくしいフォルムだ。ネーム入れもしてくれるらしく、食べ歩きの際に「マイ・スプーン」として持っていくカレー猛者も多いと聞き、カレー愛のすさまじさに、またしても感動とおののきが相半ばする心持ちになったのだった。
カレー専用スプーンを作っているのは、新潟県燕市にある山崎金属工業だと教えてもらい、帰宅してさっそくサイトを見てみた。おお、「カレー賢人」さまのみならず、さまざまなナイフやフォークやスプーンのラインナップがあるではないか。どれもとってもきれいな形だし、使い勝手がよさそう。
カレー専用スプーンは、私のようなこわっぱにはまだ早い。まずは汎用性の高い、一般的なカトラリー類をこの機に購入してみよう。サイト内の商品ラインナップをじっくり吟味し、ナイフとフォークとスプーンを二本ずつ、ぽちりと注文した。
というのも、大変言いにくいのだが⋯⋯。実は拙宅には、これまでナイフとフォークとスプーンが一本ずつしか存在しなかったのだ。しかも、どれも四半世紀はまえ、一人暮らしをはじめる際に、百円ショップで買った品だ。百円だったのに異様に頑丈で、折れる気配もないため、「食べるぶんには、これでまったく不自由しないしな」と、ずっと使いつづけてきた。ちなみに金属製のザルも、同じときに百円ショップで買ったもので、やはりいまだに壊れる気配がない。百円ショップの底力と、自身の物持ちのよさというか貧乏性、ものすごいものがあるなと思う。
だが、大人として、これでいいのか? ちゃんとしたカトラリーも、自宅に備えておくべきなのではないか? そのように考えを改め、せっかくだから「カレー賢人」を開発した山崎金属工業の品を買ってみることにしたのだ。
え? ナイフとフォークとスプーンが一本ずつしかない状態で、来客があったときはどうしてたのかって? 割り箸を提供しておりました。煮物もパスタもタコ焼きも、なんでも割り箸で行けるから無問題! カレーやシチューなどの汁気があるものは、以前はコンビニで自動的についてきたプラスチックのスプーンを取ってあったので、それを使ってもらってたし。貧乏性再び⋯⋯。まあ、スプーンがたりなくても、汁気系のものはパンに染みこませて食べりゃいいから、無問題!
著者:三浦しをん(みうら・しをん)氏
撮影 松蔭浩之