なんなんだ、その「特別なお手入れはしておりませんのよ、おほほ」的な回答は。一昔前の大女優か。そんなわけはあるまい、という我々の疑念の眼差しに根負けしたのか、
「思い当たることがあるとしたら、強いて言えば山菜です」
と、板前さんは白状(?)した。「仕事柄と場所柄から、日々の生活でも山菜を食べるんですが、新陳代謝に効くなあと感じます。お食事中にこんな話題で恐縮ですが、そのぅ、お通じがよくなる。それが肌にもいいのかもしれません」
うそだあ、と我々はまだ若干疑っていたのだが、言われてみればたしかに、板前さんの隣で笑顔でうなずいている接客係の女性も、張りのある美肌の持ち主なのだった。
はたして、山菜には本当に美肌効果があるのか。固唾を呑んで結果を待つこと一日。わたくし、近来まれに見る快腸ぶりとなり、もりもりと用を足しました!(お食事中のかた、こんな話題で恐縮です) 快便状態が三日ほどつづいたのち、五日ほどはお肌の調子がとてもよく、「うわ、すべすべになっとる。顔洗ってないのに(←洗えよ)」と驚いた。
山菜は本当に効いたんだ⋯⋯! ラピュタの存在を目の当たりにしたときのパズーなみに感慨をこめ、部屋で一人つぶやく。
いや、偶然かもしれないし、同行者に便通の具合を尋ねてもいないので、この段階で判断を下すのは早計ではないか。より精密に実証するためにも、いますぐ山形に行って、おいしい山菜料理をまた食べたい気持ちでいっぱいだ(貪欲)。そしたらきっと、再び快便&快肌を得られるし、一石二鳥だ、というのが本心だ(貪欲)。
ちなみに板前さんが教えてくださったところによると、冬眠明けのクマは、まずはカタクリを食べて、お通じをよくするのだそうだ。つまり、カタクリには快便作用がある。それをちゃんと知っていて、クマ、かしこい。
カタクリは可憐な花を咲かせるユリ科の草で、根っこが片栗粉になる。山に自生するカタクリは減少しているので、現在の片栗粉はジャガイモから作られている。
山菜として、人間もカタクリの花、茎、葉も食べるわけだが、早春に摘んだばかりのカタクリは、一本しか食べちゃいけないらしい。おなかを下してしまうからだ。塩漬けにして保存しておいたものだったら、おひたしや酢の物にして、二、三本なら大丈夫とのこと。クマはむしゃむしゃ食べるのかもしれないが、人間にとっては快便作用が強すぎるということなのだろう。
山菜、美味なうえに、なんと不思議な食べ物よ。調理法や保存法に人類の叡智が結晶しているし、どうやら体によさそうな気配もすごくする。すでに薬学などの方面で研究されていることと思うが、もっともりもりと山菜を調べてみてほしい。学術研究に対して、快便と同じ擬音を使うのはやめなさい、自分。

著者:三浦しをん(みうら・しをん)氏
1976年、東京生まれ。
2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、2018年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞、2019年に河合隼雄物語賞、2019年『愛なき世界』で日本植物学会賞特別賞を受賞。
そのほかの小説に『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『きみはポラリス』『墨のゆらめき』など、エッセイ集に『乙女なげやり』『のっけから失礼します』『好きになってしまいました。』など、多数の著書がある。

撮影 松蔭浩之