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2025.02.20 更新

寒空の下で「カンテン」の話[2]

 コンピュータによるデータ処理が中心になっているはずの今だと、気象予報士の養成に観天望気の訓練などはないのでしょうか。知りたいところですが、どうでしょうね。おそらく、台風の動きなどを観測するための、広域を対象とするコンピュータと、かなり限られた地域範囲の天気予報を対象とするコンピュータと、データの取り方も異なりそうです。

 そもそも温度を測るとか気圧を測るとかの実測が始まったのはいつからか、というのも連鎖的に気になったので調べてみましたら、いずれもヨーロッパでの17世紀、いわゆる科学革命の一環で、あのガリレオが温度計を発明し、その弟子のトリチェリが気圧計を発明したのだそうです。これ、簡単に書きましたけれど、最初の発明者はやはり偉大です。どうやって思いついたのだろうと、そのうち調べたい話です。おそらく科学史家で誰かが、すでに書いているかもしれません。17世紀末には、気圧が下がると悪天になると分かり、天気予報の先駆ともいえそうな気圧の測定がなされるようになり始めたそうです。農漁業や各種の移動など、生活必需に即したこともあったはずですが、繰り返された戦争での軍事行動のためということも大きかったらしいのですから、人間というのは、なんともはやの浅ましいことで。実際、かなり正確な天気予報の技術が確立してくるのが19世紀半ばのヨーロッパからなのですが、それにきっかけを与えたのは、いわゆるクリミア戦争での軍事行動をめぐる経験を踏まえてのことであった、というのですから、平和主義者の私としては心境複雑です。

 
 戦争話は嫌なので、最後は、食べ物の話で、カンテン。そう「寒天」です。寒い冬の空、なのですが、モノとしてはよく知られたあんみつなどに入っている、透き通った少し甘い食感のするプルプルの食べ物ですね。嫌いな人はいないのでは。このカンテン(寒天)は、今では知らない人もいるようですが、もともと、テングサなどの海藻が原料ですから、健康にも良い。と、カンテン好きの私は宣伝です。このテングサを、山間部などの夜がことのほか冷える地域でまず乾かし、熱水で煮て抽出液を取り出した後、固まったものを寒い夜空の下で凍りつかせ、乾燥させる、という過程を何回も繰り返し、保存食品として重宝するようになったわけです。あるいは餡を羊羹にするために固める材料として添加したり、日本料理でも同様です。見た目も良くなるし、健康にも良い。寒空の下で作ることから寒天と呼ばれるわけですが、作る方達の工夫や苦労を思いながら食べるのは、精神衛生にも良かったのではないかと想像されます。今ではほとんどが工場で寒天同様の過程を用いて製造しているようですが、それでも一部では伝統的な手仕事で作っていることを、何年前でしたか、NHKテレビでドキュメンタリーとしてみて感激しました。寒天は、生物研究などでの培養基としても重宝されてきたものですが、今はどうなのでしょう、別のものに取って代わられたのかもしれません。

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著者:福井憲彦(ふくい・のりひこ)氏

学習院大学名誉教授 公益財団法人日仏会館名誉理事長

1946年、東京生まれ。
専門は、フランスを中心とした西洋近現代史。
著作に『ヨーロッパ近代の社会史ー工業化と国民形成』『歴史学入門』『興亡の世界史13 近代ヨーロッパの覇権』『近代ヨーロッパ史―世界を変えた19世紀』『教養としての「フランス史」の読み方』『物語 パリの歴史』ほか編著書や訳書など多数。

地中海世界の歴史5