さて、フランスの川で数を増しているヨーロッパ大鯰ですが、昨年の1月だったように記憶していますが、日本のテレビの海外ニュースでも報道されて、あっけに取られるというか、ぎょっとした映像がありました。たしか南西フランスの重要都市トゥールーズを流れるガロンヌ川でのことだったと思いますが、中瀬の島にいた鳩が、川から跳びでてきた怪物のような太く長い生き物に襲われて飲み込まれ、その生き物の方はすぐまた跳ねて川に潜って行った、という場面です。まさかペットで飼われていたワニが野生化したわけでもあるまいと、生態学者が映像をよく分析したところ、これがヨーロッパ大鯰であることはまず間違いない、という結論で、実際、別の機会にはガロンヌ川の支流にあたるタルン川でも、アルビという中心都市の橋の上から、まったく同様なヨーロッパ大鯰による鳩への襲撃場面が目撃されていたのでした。ガロンヌ川ではすでに1989年には、またタルン川ではもっと以前の83年には、ヨーロッパ大鯰の生息は確認されていたそうです。
このヨーロッパ大鯰、フランス語ではシリュール、学名ではシルルス・グラニスと言われるのだそうですが、なんと体長は3メートルから4メートル近いものまでいるそうで、体重も250キログラム以上になるものもあるとなっては、ちょっと信じがたいようなスケールです。ドナウ鯰という別名もあるそうで、元来、中央ヨーロッパから東の川や湖沼に生息していた種類で、西ヨーロッパの川にはいなかったのですが、1960年代に、食用として、特に冷凍食品として可能性があるか、養殖の試行が始められたのだそうです。どこでかといえば、場所は、フランス第二の都市リヨンからもそう遠くない、ブルゴーニュ地方の最南部に位置するブールカン・ブレスという町の近くに位置するレシュルーという、ごく小さな村にある養殖池で、どういう組織が養殖を始めたのかは分かりませんでしたが、はじめ29尾を輸入したのだそうです。結局食用には適さない、という結論になり、1968年には養殖を断念。そこで元の生息地に送り戻すか、池の大鯰を丁寧に葬って供養してあげればよかったのでしょうが、仏教ではないので、供養などという発想はなかったのでしょう。養殖していた鯰を、近くを流れるソーヌ川に放流したのだそうです。一尾放した、と書いてある記事もありましたが、一尾では増殖しないでしょうから、何尾か放したと想像されますが、何尾放したかは、どこにも正確には書いてありませんでした。いずれにしても、いやはや、です。
ソーヌ川は、レマン湖から流れてくるローヌ川と、リヨンの市中で合流して、やがてローヌ川は地中海に流れ込む、古代ローマ以来変わることなく水運でも重要な川です。そして下流でローヌ川に合流するガール川、ローマ時代の水道橋の遺構として有名なポン・デュ・ガールのかかる川ですが、この川で2メートルを超えるヨーロッパ大鯰がとれた報告が出されることになります。この大鯰は、水温が最低でも摂氏20度ないと繁殖できないそうですが、近年の温暖化を超えた、灼熱化ともいわれる環境条件は、彼らにはまったくの好条件のようです。そして、釣りに熱中しているマニアには、こうした巨大な大物が釣れるのは、すこぶる快感らしい。スペイン北東部にあって地中海に注いでいるエブロ川には、釣りマニアがこのヨーロッパ大鯰を放流してしまったために、現在では他の種を凌駕してしまって、生態系の上で大問題となっている、という記事もありました。
ブラックバスなどの大型の外来種を川や湖に放流してしまって、貴重な在来種が根絶の危機に陥るなどという、人間の愚かしさが自然界をも歪めてしまう愚行は、日本でも見られることで、いい加減に猛省していかないと、こうした面からも地球上の生命の存続は、危うくなってしまいかねません。
オリンピックのセーヌ川に、大鯰が姿を見せないことを祈るとしましょう。もっとも、長い目で見れば残留農薬などによる水質汚染の方が大鯰以上にさらに怖い、という記事もあり、そりゃそうだといわなければならないのも、つらいところです。とにかく、人間によるテロも、大鯰によるテロもなく、オリパラ両方とも、無事にアスリートたちの切磋琢磨が進行するよう、祈りたいと思います。