ラテン語は多くの日本人にとって距離が遠く感じる言語だろう。ほとんどの人がどんな音なのか生で聞いたこともないはずだ。現在ではラテン語を母国語としている国はないし、調べてみたら公用語としてラテン語を使用しているのはバチカン市国のみのようだ。
古代ローマ帝国が大きな力を持っていた時代には、ラテン語はヨーロッパ中で使用されていた言葉であり、現在のヨーロッパ文化の礎とも言える言語であることは間違いない。つまり西洋の文化や社会の大元を作ったとも言える重要な言語だったはずだ。
ところで本書は、漫画家でイタリアでの生活が長いヤマザキマリさんとラテン語研究者であるラテン語さんとの対談集である。
ラテン語さんのことは、X(旧Twitter)でラテン語について呟いている時から気になってフォローしていた。気がついたら『世界はラテン語でできている』が刊行され、それを読まないでいるうちに人気のヤマザキさんと共著を出したので正直なところびっくりしながら、手に取った本書だった。
読む前にちょっと心配だったのは、ラテン語の知識を散りばめられて、かつヨーロッパの文化や社会と無理やり関連させるようなものだったら嫌だなあというのが頭によぎっていたが、それは杞憂だった。楽しい対談なのである。たぶんヤマザキさんは、テレビやラジオで話すようなスピード感でラテン語さんにも話しかけているだろう。それに対して、ラテン語さんは淡々と誠実な雰囲気で語っているのが行間から透けて見える。
サブタイトルにある「人生に効く珠玉の名句65」というように人生への教訓や哲学、歴史、恋愛などに関する名句を、ラテン語さんとヤマザキさんが、語り合うという進行だ。事前に取り上げられていた名句に対し、ヤマザキさんは豊富な経験や知識から溢れ出る言葉を重ね、ラテン語さんは若い研究者としての真摯な態度や誠実な人柄を感じさせる言葉で紡いでいく。
本著を読む時、できることなら名句にそれぞれ記されているふり仮名を声に出して読み進めてみるといい。以前にローマ史の先生に聞いたところでは、ラテン語はそのふり仮名を平板な発音で読めばだいたい良いとのこと。音にして、かつ2人の対談を読むと、何だかタイムスリップでもしたような気分にさえなった。
そして最後まで読んだ後には、ラテン語を本格的に勉強しちゃおうかな、っていう気持ちにもなったから、著者たちの戦略にしっかりハマったのかもしれない。
ちなみに、取り上げられている中で私が知っているものはひとつだけだった。
in vino veritas (イン ウィーノー ウェーリタース) 酒に真実あり
なかなか、これも深い言葉である。
2025.2.15(M)