だいたい吉祥寺に住まう

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都市住まいをする大人のために

2025.02.28 更新

Love Letter(1995)

冒頭、冬景色で遠景の中、カメラの動きは少ないまま女性が歩いて移動していく長回しのシーンが美しい。ここでまずこの作品に心を掴まれる。

結婚する予定だった恋人、藤井樹が亡くなって2年経った博子は、恋人の実家で見た卒業アルバムから、当時の住所を見つけて小樽の住所に手紙を送ってみる。そこから返事が来た時から、博子の戸惑いと喜びが始まった。手紙をやり取りしていて解っていくのは、実は同姓同名の藤井樹という女性がいるということだった。それも、少年の樹と中学校時代に同じクラスだったのだ。
大人になった樹さんは、手紙のやり取りが始まった頃は樹くんのことをすっかり忘れていたが、手紙が続くことで、樹少年がどんな中学時代を過ごしていたのか、少女の樹さんと少年の樹くんがどのような関わりを持っていたのかなどが少しずつ明らかになっていく。
神戸に住む博子は小樽まで樹さんに会いに行くが、タイミングが悪く会えなかった。しかし偶然にも街の中で自分そっくりの女性を見てしまう。そしてそれが樹さんだと瞬時に理解したのだった。
初恋の人への想いが強く、樹さんにそっくりな自分に惹かれた樹くんの思い。それがすっかりわかってしまった博子は、自分の気持ちを整理し時間を進めようと決めるのだった。

この映画、突っ込みどころは沢山ある。
恋人が死んで2年以上してから知った恋人の初恋を、博子はどう受け止めて生きるのか。これは結構なショックな展開で、かなり傷つくはず。
死んだ恋人の友人と次の恋が進行しそうな博子は、幸せになれるのか。このまま一緒になると、恋人の死を一生引きずりそうだから、豊川悦司演じる秋葉とは別れて、他の人と一緒になった方がいいように思うのだが。
中山美穂が演じる藤井樹さんに、ずっと恋の気配がないのだが、そんな訳ないだろうの年齢と美貌。そしてある種の鈍すぎる性格。
しかしよくよく考えると、突っ込みどころがあっても、そんなリアリティなど無視したことで見えてくる少年の頃の藤井樹くんの密やかな恋心と、その後に運命のように博子と出会った時の藤井樹くんの戸惑いを伴っただろう喜びもくっきりと浮き上がってくる。これはお伽話で、リアリティなどある程度は無視して良いんだ、きっと。
そして樹さんの少女時代を演じる酒井美紀の無垢で無防備に見える表情や雰囲気がなんとも清々しい。

この作品は、韓国でも大ヒットしたというのは知っていたが、2000年代初めに、韓国に行ってタクシーに乗った時に、私が日本人だと知った運転手さんがこの映画の有名なセリフである「おげんきですか〜!」と話しかけてきた時に苦笑したのを今も覚えている。運転手さんは、山に向かって中山美穂が叫ぶシーンについての感想を力強く話していた。そして、日本人なら当然この映画のことを知っていて、感動したに違いないと思ったのだろう。
中山美穂の初々しさとひたむきさを見ると本当に惜しい人を早く亡くしたなと思ってしまう。ミポリンの魅力が詰まった心に響く映画である。

2025.2.28(M)

星評価 4.0
地中海世界の歴史5